24歳の若さにして脚本家・演出家・映像監督として舞台をはじめ様々な作品を数多く手掛けるクリエイター、海路(みろ)。彼の主宰する劇団papercraftが2023年に上演した第8回公演「檸檬」が、第 29回劇作家協会新人戯曲賞を受賞し、話題を呼びました。そんな海路の、受賞後初となる作・演出の舞台が劇団papercraft第10回公演「空夢」が4月26日より東京・すみだパークシアター倉にて開幕します。
そして、この作品はW主演として、同じアミューズ所属であるダンスパフォーマンスグループ s**t kingz(シットキングス)のメンバーで俳優としても活動の幅を広げる小栗基裕と、映画やドラマ、バラエティと精力的に活動し、舞台作品への出演としては今回が3作目となる坂ノ上茜が務めます。
小栗「いい意味で頭がバグるんですよ(笑)」
海路が新作公演で創り出す"リアルな非日常"とは
海路、小栗、坂ノ上の3人ともに同じ事務所という共通点を持ちながら、作品で顔を合わせるのはこれが初となります。まずはアミューズ所属という共通点について、そしてキャスティングの経緯から話を聞きました。
海路:僕はアミューズに所属してまだ日は浅いのですが、"創る"ということに対してとても積極的な雰囲気を感じています。いろんなジャンルで活躍されている方が幅広く所属している会社ですし、みんなで創るっていう意識が深く根づいているなって。そういう共通点があるからこそのチーム感は、創り手としてとても魅力的ですよね。
キャスティングについては、以前、小栗さんとご挨拶させていただいたときの印象として、社会的な部分とその裏にある人間的な部分の白黒がしっかり区分けされている方だなという気がしたんですよ。なので、あえてそこを引っぺがしてみた時に作品が面白いんじゃないかと思いオファーしました。昨年、小栗さんがご出演された舞台「ある都市の死」を拝見していたこともあり、キャスティングを考えていたときに"小栗さんはどうかな"と浮かんだんです。
坂ノ上さんに関しては以前からご出演されている作品をいくつか拝見していました。今回の「空夢」はある意味、女性側の主人公(女1)の視点で描かれている物語ではあるので、感情の起伏というか、そういうエネルギーのある方がこの役に合うんじゃないかな、坂ノ上さんだったらどうだろうって思ったのがきっかけです。
キャスティングに至るきっかけの話題については、「見抜かれちゃいましたね」と冗談交じりに笑う一幕も。そんな主演の2人から見た海路作品の魅力、また、今作に惹かれた理由を聞いてみました。
小栗:海路さんの作品はいい意味で頭がバグるんですよ(笑)。昨年、劇団papercraft第9回公演の「人二人」で初めて海路さんの作品を観劇したんですけど、セリフは限りなく日常会話に近いのに、自分の目の前で繰り広げられるのは見たこともない世界で、そのギャップがすごく面白かったし、ヒリヒリするような印象を受けました。そんな海路さんの世界観に自分が飛び込んだらどうなるんだろうっていう興味やワクワク感があったので、今回、お話をいただいたときは嬉しかったです。ついこの間、脚本の初稿を受け取ったのですが、最初に感じた、いい意味での"バグり方"もやっぱり楽しくて(笑)。
坂ノ上:私は直接劇場に足を運ぶことができなかったのですが、映像で作品を観させていただき、衝撃を受けました。あくまで非日常な世界なのに、ものすごくリアルに描かれていて、こんな作り方をされるんだ、今までにない作品だなという強い印象がありましたね。今回の「空夢」も最初の企画書に書かれていたあらすじを読んで"どういうこと?"と思いました(笑)。でも、すごく気になるプロットで、これを舞台でやるとどうなるんだろう?ってとても興味が湧いたんです。私自身、チャレンジしたことがない世界感ですし、実際にどう溶け込んでいけるのか不安な部分もまだあるんですが、それも含めて新しい自分を開拓できるチャンスだなと思いました。
海路「綺麗じゃないものも舞台を通してしっかり見せたい」
「空夢」で表現する人間の本質とは
タイトルの「空夢」とは「見もしないのに、見たように作り上げて人に話す夢。また、正夢(まさゆめ)と違って、現実には夢で見たようにならなかった夢(*1)」のこと。この言葉を知ってインスピレーションを得た海路が書き上げたのは"同級生の街"という架空の街が舞台となって展開する、怖いほどに不条理なのにどこか既視感さえ覚えるようなリアリティに満ちた世界の物語です。設定がシュールであればあるほどに、私たちが生きる現実世界の歪みが容赦なく浮かび上がり、受け手側は否が応でも人間の性(さが)や業(ごう)に向き合わずにはいられません。
(*1)デジタル大辞泉[小学館]より
海路:この作品に限らず、僕は綺麗じゃないものも舞台を通してしっかり見せたいと思っているんですよ。人間、汚い部分ってみんな絶対にあると思っているので。でもそれを作品として描くことには怖さもつきまといます。汚い部分を普段から晒している人はほとんどいないですし、見せるとしても本当に親しい人の前だけ。誰が本当は何を思っているか、想像するしか術がないので...それに対して共感が得られなかったらと思うと怖いですね。でも、共感を得られたその瞬間、そのシーンはきっと面白いものになると思うんです。だって、普段はこんなに真面目な顔をしているのに、家に帰ったらこんななの!?みたいな所にこそ、一番人間が出るし、それが本質でもあると思うんですよね。
そう言葉を紡ぎ、怖いからこそチャレンジしていきたい、主演の2人ともしっかり話し合いながら「空夢」を作り上げていきたい、と海路の口調にも熱が帯びます。
そして互いに"同級生"であり、恋人かつ婚約者という設定で役柄を演じる小栗と坂ノ上。初対面となったのは今作のポスター等に使われるビジュアル撮影の現場だったと振り返る2人に、それぞれの第一印象について訊ねてみました。
小栗:めちゃくちゃ陽のオーラがある方。坂ノ上さんのいる場所はとても明るい印象があって、すごくポジティブなパワーを感じました。自分も公の場面ではできるだけ明るくいようとしているんですけど、実は結構、根暗なんですよ(笑)。そんな俺からすると坂ノ上さんはナチュラルに周りを明るくできている方なので、憧れますね。
坂ノ上:年上の方に言うのは失礼かもしれないですが、小栗さんはとっても爽やかな好青年で。優しいし座長としても引っ張ってくださるだろうという安心感がすごくあるんです。W主演ということで、私も一緒に引っ張っていけるように頑張りたいと思っていますが、初めてお会いしたときから頼れる存在だという印象なので、わからないことがあればいっぱい聞いちゃいそうです。
どこにもあるようでどこにもない唯一無二の世界、「空夢」。
これからさらに他のキャストの表現も加わり、そして作品の解釈も深まり、それぞれの新境地が掛け合わさることでここでしか味わえない面白い舞台になるはずだ、と期待感に満ちていた "チーム・アミューズ"の3人。そんな3人を中心に本番の舞台でキャスト陣がどんなケミストリーを起こすのか、楽しみにしてぜひ劇場まで足をお運びください。